こんにちは、八王子・多摩で会計事務所をやっている税理士の古川顕史です。
相続税対策として多く活用されている「生前贈与」。ですが、最近は『その生前贈与が使えなくなるかも』と言うウワサもあります。
実は、2020年12月に令和3年度税制改正大綱が発表され、その中で相続税と贈与税の制度についての見直しが言及されたのです。
「格差をなくす」という目的のため、従来の節税策が利用できなくなる可能性があるのです。
目次
【生前贈与とは】
(1)年間110万円までなら贈与税がかからない
生前贈与とは、「個人が存命中に自身の財産を特定の誰かに渡すこと」を指します。贈与する金額が一定額を超えると、贈与税が課税されてしまいます。
通常の生前贈与であれば、1月1日~12月31日までの1年間に渡す財産の合計額が110万円以内であれば贈与税はかかりません。これは「暦年課税制度」とも呼ばれます。
110万円を超えた場合は、超過分に対して贈与税が課税され、財産を受けとった側が申告と納付を行います。なお、贈与税の申告・納付期限は、贈与の翌年の2月1日から3月15日の間です。
(2)相続時精算課税
相続時精算課税は生前贈与の制度の一つです。60歳以上の両親や祖父母から20歳以上の子や孫へ贈与を行う場合に適用させることができます。
相続時精算課税では合計2,500万円以内まで贈与税が非課税となります。(贈与額が2,500万円を超える場合は、超過分に対して一律20%の贈与税が課税されます。)
一見、通常の生前贈与よりもお得に見えますが、相続の際に贈与された財産に対して相続税が課税されます。(支払った贈与税は相続時に相続税額から差し引かれ、相続税額が少ない場合は差額が還付されます。)
そのため、税金の支払いを相続発生時に先送りしているだけの面もあり、節税対策として活用するには、難しい制度でもあります。
なお、本制度は受贈者側で税務署に申請をしなければ活用できません。(何もしないと、暦年課税を選択したことになります。)
【生前贈与のメリットとデメリット】
(1)メリット
- ・相続税対策に有効
- ・財産を渡す相手を自由に選べる
- ・好きなタイミングで財産を渡せる
生前贈与では年間110万円以下まで贈与税が課税されないので、その非課税枠を活用して財産を移転させれば、相続時の課税財産額が減り、相続税を抑えることができます。
例えば、遺産の予定額が預貯金1,000万円だった場合、暦年贈与を活用して生前に110万円を子供に贈与します。すると、遺産額は890万円に減額となり、相続における課税対象額も減額となります。110万円は贈与税の非課税枠のため、トータルで見ても大幅な節税となるわけです。
また、生前贈与では贈与する相手を自由に選択できます。相続では、基本的に財産を相続できるのは法定相続人と遺言書で受遺者に指定された方のみです。それを考えれば、血縁者以外に財産を渡したい場合、生前贈与の方が手間がかからないと言えるでしょう。
もちろん、財産を渡すタイミングも自由です。相続の場合は、財産所有者が亡くなるまでは、相続人は財産を受け取ることができません。人はいつ亡くなるかわかりませんから、相続による財産譲渡は、まったく予測できません。
その点、生前贈与であれば、財産を持っている人が望んだ時期に財産を贈ることができるので、便利です。
(2)デメリット
- ・税務署に認められない可能性がある
- ・不動産贈与だと贈与税以外の税金が生じる
- ・贈与から3年以内に贈与者が亡くなると相続財産に加算される
生前贈与は贈与側と受贈側の合意が必要な「契約行為」です。よって、どちらかが贈与に合意していなかったり、受け取った財産について受贈側で自由に使えない場合は、成立しません。
子供名義の口座に贈与金を振り込んだ後、親が預金通帳を管理するケースがありますが、この場合は子供がお金を自由に下ろせない=実質的には親の財産であるとして、贈与行為が否定される可能性があります。
贈与が否定されれば、親が亡くなった際に相続税の対象になってしまいます。
また、不動産を贈与する場合、特例制度を使えば高額の贈与税を控除できますが、贈与税以外の税金や手数料が生じてしまいます。具体的には「登録免許税」と「不動産取得税」ですが、これらの費用は相続ではかからなかったり、低い税率となるので留意するべきです。
そして、贈与者の死亡より3年以内に行われた贈与は相続財産に加算されるのも厄介です。(これは生前贈与加算と言います。)
節税対策として生前贈与をしても、3年以内に贈与者が亡くなれば、受贈者側に相続税が課せられてしまいます。
【生前贈与の正しい手順とは】
生前贈与は税務署に否認されてしまうと、相続税対策にもなりません。そのため、正しい手順で行う必要があります。
生前贈与は前述したとおり、契約行為です。税務署に認められるためには、「契約行為の成立」があったことを証明しなければなりません。
それには、まず以下のポイントを意識しましょう。
- ・贈与する側と財産を受けとる側の双方の合意
- ・財産を受け取った側が財産を自由にできる
- ・贈与があったことを客観的に示せる証拠を用意する
贈与は、贈与を受ける側が贈与行為を認識していない場合は無効です。必ず、お互いの合意を持って行うようにしましょう。
また、贈与された財産は受贈者が自由に使えないと贈与として認められません。
なので、預貯金等を贈与する場合は、受贈側が引き出せる口座振り込みます。(※受贈者が頻繁に引き落としや預金をしていれば、自由に使えるお金として贈与されているということになります。)
そして、贈与行為の証拠として契約書を残します。契約書があれば、第三者への証明にもなるので、必ず作成しておきましょう。
契約書の書式や書き方は基本的に自由ですが、契約書ですから、
- ・契約締結日
- ・贈与者と受贈者の名前と住所
- ・贈与された財産の内容
の記載や双方の署名と押印は必須です。
詳しくは下記を参考にしてください。
また生前贈与の正しい方法については以下にも記載していますので、こちらも一読ください。
【生前贈与に関する動きとは】
節税対策として多くのメリットが得られる生前贈与ですが、2020年の年末に発表された「税制改正大綱」に以下の記述がされていました(一部要約しています)。
“諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税することで、意図的な税負担の回避を防止している”
“このような諸外国の制度を参考に、今後は相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から格差の固定化防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める”
かなり大まかに言うと「更なる格差是正のために、贈与税・相続税の課税を見直す」ということになります。
諸外国では、資産を譲るタイミングに関係なく、一定期間の相続や贈与に関しては累積して課税するなど、税負担の回避を防止するシステムが作られています。
例えば、ドイツやフランスでは、生前贈与加算の年数が10年以上となっていますし、アメリカでは、遺産課税方式を採用していて過去の全ての贈与額合計額が相続の対象になります。(つまり、アメリカでは暦年贈与の非課税枠はないのです。)
これらの制度を参考にすると言うことは、
- ・生前贈与加算における年数の引き延ばし
- ・生前贈与の年間非課税枠の廃止
が起こる可能性があると言えましょう。
よって、最悪の場合、生前贈与が相続税対策として機能しなくなることになります。『相続税と贈与税を一本化する』というのは、生前贈与で財産を受ける人と相続によって財産を取得する人の税額が同じになることであり、それは「暦年贈与制度を無くす」ということに繋がります。
今は検討段階ですが、近い将来、税制改正によって、生前贈与制度がなくなる可能性も十分にあるのです。
【節税を考えるなら早めの対策を】
いつから生前贈与が使えなくなるかは断定できませんが、早ければ2022年内に税制が改正されて、翌年に新制度が実施されることもありえます。
過去の生前贈与については流石に制度を適用させないので、生前贈与による節税を考えているのであれば、早めに行動するべきでしょう。
生前贈与ができなくなれば、活用できる節税方法が減るわけなので、相続税額に確実に影響します。生前贈与をしようと考えている場合は、早い段階で財産調査や節税の相談を専門家に相談しておきましょう。
【節税対策は相続専門の税理士にご相談を】
生前贈与は税金に関する事項なので、税理士の分野です。
ただし、税理士であれば誰でも良いと言うわけではありません。税理士も得意分野が分かれるので、必ず相続を専門にしている税理士に相談してください。
ホームページ等で対応分野を確認し、面談も実施した上で決めると良いでしょう。
相続税や贈与税についてのお悩み・ご相談がありましたら、八王子・多摩の古川会計事務所・八王子相続サポートセンターへお気軽にお問い合わせください。
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