遺言書にはいくつかの種類があるが、それぞれに優先順位はあるのか?

遺言書

こんにちは、八王子・多摩で会計事務所をやっている税理士の古川顕史です。

遺言書は故人の思いを相続に反映させるものであり、相続人同士の無駄な争いを無くしたり、相続手続きをスムーズにできるメリットがあります。

しかし、ケースによっては遺言書が複数見つかる場合もあります。このような場合に、どの遺言書が優先されるのか、本記事で解説いたします。
 

【遺言書の種類】

遺言書は、大きく分けて「普通方式」と「特別方式」の2つのグループに分かれます。特別方式は作成できる条件が限定されるため、 一般的に広く作成されるのは、普通方式遺言です。

(1)普通方式遺言

名前の通り一般的な形式である遺言書で、日常生活の中で作成が可能です。「自筆証書遺言」・「公正証書遺言」・「秘密証書遺言」の3種類があります。

①自筆証書遺言
・遺言者が遺言の全文(目録は自筆でなくても可)・日付・氏名を自筆、押印して作成
・紙とペンさえあればいつでも作成可能
・費用がかからず、面倒な手続きも不要
・自分1人で作成すれば、遺言内容を秘密にしておける
・内容を専門家にチェックしてもらわないと、形式不備になりやすい
・紛失や第三者に偽造・隠匿されるリスクもある
・紛失のリスクを抑えるために原本を法務局の遺言保管所で預かってもらう制度もある

②公正証書遺言
・作成は公証役場にて公証人が行う
・そのため、形式不備や内容の不備が起こらない
・原本を公証役場で保管してもらえるので紛失や偽造のリスクもない
・デメリットは作成費用と手間がかかること
・証人の立会いが必要な点も注意

③秘密証書遺言
・遺言の作成は遺言者が行い、保管は公証役場で行う
・遺言内容は公証人にすら知られない
・公正証書遺言同様、偽造・隠匿の防止になる
・遺言内容について専門家のチェックを受けないので、無効になる危険性あり
・手続きに費用がかかり、証人を用意する手間も生じる

(2)特別方式遺言

普通方式遺言で作成ができないような特殊な状況下にある場合に、作成可能な方式です。状況ごとに必要な要件が異なります。

例えば、乗っている船が遭難し、死の危険に瀕している場合、証人二人以上が立会えば口頭で遺言をすることができます。(難船危急時遺言と言います。)
 

【遺言書の優先順位】

前述したように遺言書には様々な種類がありますが、実は優先順位は決められていません。なぜなら、遺言書は新しい日付が優先されるからです。

もし、公正証書遺言の作成後に自筆証書遺言書が作成された場合、その自筆証書遺言書に不備がなければ、その遺言書の内容が優先となります。(日付が1日違いだったとしても、新しい遺言書が優先です。)

ただし、遺言内容が全く抵触しない場合は、古い日付の遺言にも効力があります

例えば、最初の遺言書では「預貯金を長男に相続させる」とだけ記載されており、後の遺言書で「不動産は次男に相続させる」とだけ書かれていた場合、不動産と預貯金は別の財産であり、新旧の遺言のどちらも実行可能となるので、共に有効となります。
 

【不備のある遺言書は無効となる】

優先順位は日付で決まるといっても、必要項目が抜けていて形式不備となる遺言書は無効です。新しい遺言書と内容が抵触していなくても、無効である遺言書の内容は実行されません。

自筆証書遺言であれば、「財産目録以外の全文を自筆で書いていない」、「署名押印されていない」といった不備で無効となるケースが多いので、作成時には十分注意するべきです。
 

【法定相続人の意思と遺言はどちらが優先?】

法定相続人の意思と遺言では、もちろん遺言が優先されます。遺言は、故人が自分の財産の処分について意思決定した結果であり、法定相続分の規定については補充的な規定にすぎないのです。

ただし、遺言でも遺留分(法定相続人が最低限の遺産を取得する権利)を侵害するような内容の場合は、効力を持ちません。また、仮に法定相続人全員の同意があれば、遺言内容と違う遺産分割協議をしても構いません。(しかし、その場合、遺言執行者や相続人以外の受遺者がいないことが条件です。)

遺言は法定相続人の意思よりは優先されるものですが、絶対ではないのです。
 

【新しい遺言書を作成する場合】

前述したように、遺言書は若い日付のものが優先されます。そのため、内容が被る部分については、古い遺言書の方は無効となります。

例えば、古い遺言書で「遺産の取り分は長男が6割・次男が4割」と書いても、新しい遺言で「遺産の取り分は長男が5割・次男が5割」と書いていれば、新しい遺言の内容で分配が実行されます。

ただし、あくまでも無効となるのは、日付の新しい遺言書の内容と「抵触する」内容の部分だけです。そのため、遺言書が多数存在していると、どの部分が有効かで混乱しやすくなります。

よって、できる限り、遺言書を作りすぎないこと、新しいものを作る際には、「○年○月○日に作成した遺言は撤回する」という内容を記載しておくとわかりやすいでしょう。
 

【相続についてのご相談】

相続についてのお悩み・ご相談がありましたら、八王子・多摩の古川会計事務所・八王子相続サポートセンターへお気軽にお問い合わせください。

60余年の豊富な実績を持つ税理士が親切・丁寧に対応いたします。

アバター画像

投稿者: 古川顕史(公認会計士・税理士)

八王子相続サポートセンター センター長。 公認会計士・税理士。 早稲田大学商学部卒業 あずさ監査法人退社後、古川会計事務所入所。 八王子相続サポートセンター所長 相続税対策(納税予測、資産組替シミュレーション等)立案多数。