こんにちは、八王子・多摩で会計事務所をやっている税理士の古川顕史です。
相続 では、認知症のリスクなどについて語られることが多いかと思います。
現在では、65歳以上の高齢者のうち認知症および予備軍の方は全体の約1/4を占めるというデータがあります。もし、認知症になれば、生活が困難になることはもちろん、法的な手続きについても問題が生じます。
意思能力がない方では法律行為の効力要件を満たさないからです。そういった意味で、相続においても遺産分割協議や相続放棄等の手続きができなくなります。
目次
【相続人が認知症のケースはある】
亡くなった被相続人が認知症のケースは多いですが、残された家族である相続人が認知症である場合もあります。
例えば、被相続人の配偶者は高齢者であることが多いので、認知症を患っている場合も多いです。また、被相続人の子供であっても、認知症の場合があります。
認知症は、40歳から64歳の初老期段階で発症するパターンもあるからです。(非常に稀ですが、それ以前に発症される方もいるようです。)
認知症や精神疾患等で判断能力に問題がある相続人が遺産分割協議書に署名捺印しても、法的には無効とされてしまいます。
【相続人が認知症だった場合の問題点】
(1)遺産分割協議ができない
遺言があれば、遺産の配分はその内容に従って進められます。遺言がなく、法定相続人が複数である場合は遺産分割協議をする必要があります。
この遺産分割協議の完了には相続人全員の合意が必須です。合意がなければ、法律上の効力はありません。もし、一部の相続人が不参加(行方不明の相続人がいる、法定相続人となる隠し子がいた等)の場合には、協議結果は無効となるのです。
そして、相続人の一人が認知症で判断能力が低下していた場合も、法的な手続きができないので、遺産分割協議での合意ができません。
遺産分割協議ができないとなると、預貯金の凍結解除が不可能になり、被相続人名義の不動産も処理が不可能です。
凍結の解除は、遺産分割協議の完了が条件です。認知症の相続人がいれば合意が得られず、協議が完了しません。
(2)代筆は罪に問われる可能性がある
認知症の相続人に代わって遺産分割協議書への署名を他の相続人がしても無効です。
家族であっても代理権を有していなければ、勝手な署名は私文書偽造罪に問われる可能性があります。
(3)認知症の相続人は相続放棄できない
認知症の方は法律行為ができなくなるので、相続放棄もできません。
他の相続人が代理で申し立てをしようとしても、家庭裁判所が受理しません。
【成年後見制度の利用しかない】
認知症の方は、自らの意思で遺産分割協議の参加も相続放棄もできません。それらの法的手続きをするには、成年後見制度を利用するしかありません。
成年後見制度は、認知症などでご自身の財産管理が困難な方に代わって、後見人が財産管理や重要な契約などをするものです。
遺産分割協議も本人の代理人として後見人が参加します。相続放棄についても、後見人が手続きをします。
【成年後見制度の問題点】
(1)家族が後見人になれるわけではない
成年後見人が誰になるかは裁判所が判断します。
家族を成年後見人候補者として希望したとしても、第三者の専門家が選任される可能性があります。実際には現在の家庭裁判所での運用だと、親族よりも専門職(司法書士や弁護士等)を後見人とする傾向にあります。
一度選任された後見人の変更は余程の理由がない限りは認められません。家族は選任された後見人と付き合っていくことになります。
なお、家族が後見人になったとしても、遺産分割には参加できません。これは、後見人が相続人である場合、遺産分割の場では被成年後見人と利益相反関係になるからです。
そのため、また家庭裁判所に申し立てをして、特別代理人を選任しなければなりません。
(2)成年後見人に対する報酬を支払う必要がある
成年後見人が誰になるのかは裁判所に決められてしまうため、外部の専門家が選任された場合には、報酬を支払わなくてはいけません。
これは一生涯続きますので、今後収入が増える見込みがなく、貯金から医療費や生活費が毎月目減りしてしまうご高齢の相続人にとっては重い負担にもなります。
【遺言書を作成の重要性】
前述したように、相続人が認知症の場合、相続でかなりの問題となってきます。遺産分割協議をするにも、かなりの手間が生じます。
こういった問題における一番の対策は、被相続人が生前に「遺言」を作っておくことです。
遺言で「誰に何を相続させるか」を決めていれば、遺産分割協議をしなくても、預貯金の口座凍結解除はもちろん、相続不動産の処理もできるからです。
相続手続きを円滑に進める意味でも、遺言書はとても重要です。
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