こんにちは、八王子・多摩で会計事務所をやっている税理士の古川顕史です。
親族や知人に金銭を貸している方もいらっしゃるでしょう。ただ、近しい間柄ということで、相手の状況を考慮して、「債務をなかったものとしてあげる」ケースもあるかと思います。
民法では債権者がその権利を放棄し、債務者の債務が免除されることを「債務免除」といいます。
実はこの債務免除には贈与税がかかります。贈与税と言うと、無償での財産譲渡に課せられるイメージが強いですが、債務免除についても贈与と同様の利益を得ているとして、贈与税が課せられます。
税法的に言うと、「みなし贈与」に該当するわけです。
目次
【みなし贈与とは】
通常の贈与はもらう側とあげる側の契約によって成立します。しかし、みなし贈与は、双方に贈与の意思があってもなくても、税務上で、「贈与と同じものである」とみなされる取引です。
みなし贈与とは、その名前の通り「通常の贈与と同じとみなされる」行為なのです。
みなし贈与は双方に贈与の認識がなくても、相手に経済的利益が発生すれば、税務署から贈与とみなされるのです。
【通常の贈与とみなし贈与の比較】
通常の生前贈与とみなし贈与の特徴は以下の通りです。
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①通常の贈与の特徴
- ・贈与者と受贈者の間で、原則として無償で財産の移転が行われる
- ・贈与者と受贈者の双方で合意がある(契約は書面でなく、口約束でも可)
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②みなし贈与の特徴
- ・不動産を安く売ったり、負債を肩代わりしてあげるなど、相手に利益を与える行為
- ・贈与者と受贈者の双方に贈与であるという認識がなくても良い
みなし贈与が通常の贈与と異なるのは、双方に贈与の認識がなくても良いことです。
例えば、父親の所有する不動産を息子に時価よりも大幅に安い金額で売った場合、父親にも息子にも、その行為が贈与であるという認識はありません。
【債務免除はみなし贈与となる】
前述したように、贈与者と受贈者の双方に贈与であるという認識がなくても、受贈者側に利益を与える行為はみなし贈与となります。
債務免除は返済義務が解消されることで、解消された分の経済価値が移転しています。
仮に父親が息子に1,000万円を貸し、そのお金を返さなくても良いとした場合、息子は1,000万円をもらったものと同じになりますよね。
よって、債務免除=贈与取引が発生したものとみなされ、免除された金額について贈与税が課税されます。
【注意したいその他のケース】
似たような状況で「みなし贈与」と判断される典型的なパターンをご紹介します。
債務引受は、債務者が負担する債務をそのまま別の方が負担するものです。
たとえば、Aさんが1,000万円の借金をしている債務者だった場合、Bさんが「債務引受」をして、同額の返済義務を負うとなると、Aさんは借金を返済する必要が無くなります。
こうなると、Aさんは実質的に1,000万円の経済的利益を得たものと同じです。そのため、AさんはBさんから贈与によって1,000万円を取得したとみなされ、贈与税が課税されます。
Aさんの借金をBさんが肩代わりした場合も同様で、Aさんは1,000万円を返済する必要が無くなります。ただし、BさんはAさんに返済してあげたお金の返済を求めることが可能です(求償権)。
この求償権をAさんが放棄すれば、Bさんは無くなった借金と同額の経済的利益を得たことになります。
【贈与税がかからない場合も】
前述したように、債務引受・債務免除・債務の肩代わりがあった場合は、債務者が利益を受けた分だけ、みなし贈与が適用されます。
しかし、一部のケースでは贈与税の課税対象とならない場合があります。それは、債務者が「経済的な余裕がなく借金を返済することができない状態」において、
- ・債権者から債務の免除を受けた
- ・債務者の扶養義務者に債務引受や弁済をしてもらった
のいずれかの場合は、その借金の返済をすることが困難である部分の金額のみ、贈与の課税対象から外されることになっています。
債務者が経済的に困窮しており、負債の免除を申し出たのに課税がされたのでは、債務免除をした意味も薄れます。よって、救済措置として贈与扱いしないことになっているのです。
【贈与による相続税対策を行う場合は専門家にご相談を】
生前贈与はうまく活用することで相続税対策として活用することができます。
例えば、毎年、110万円を超えない金額で家族に金銭などを渡せば、税金がかからずに財産の移転が可能です。ただし、債務免除のようにみなし贈与として扱われるケースもあるので、制度をよく理解していないと想定外の税金を支払うことにもなります。
贈与は使い方次第によってはメリットもあれば、リスクもある制度ともいうことができます。
贈与を利用した相続税対策を行う場合は、失敗しないためにも、一度、税理士へ相談されることをおすすめいたします。
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