こんにちは、八王子・多摩で会計事務所をやっている税理士の古川顕史です。
家族にもいろんな形があるように、相続にも様々なケースがあります。未成年者の方が法定相続人になることも珍しくありません。
未成年者の場合、通常の相続人とは異なる取り扱いがなされます。というのも、未成年者は自身だけでは法律行為ができないとされているからです。
本コラムでは、未成年者が財産相続をする際に注意すべきポイントを解説いたします。また、相続税に関する制度についても適用できるものがありますので、そちらも併せて説明いたします。
目次
【未成年者は法律行為ができない】
民法の規定では、未成年者は法律行為ができないことになっています。携帯電話を契約する場合や古本の買取などでも、親が代理人となって契約を行いますよね。これは、未成年者には法律行為を行うための思考力や判断力が十分ではないとされているからです。
相続では、被相続人の子供が幼かったり、孫が相続人になるなど、相続人が未成年であるケースも多々あります。
この場合、「遺産分割協議」は法律行為にあたるので、未成年の相続人が参加することはできず、代理人を立てる必要があります。
ここで注意するべきは、親や他の親族が代理人になるケースです。親は携帯電話の契約等では子供の代理人になりますが、相続においては、「利益相反行為」となる可能性が高く、なれないことが多いのです。
【利益相反への注意】
利益相反とは、ある行為のせいで一方の利益になると同時に、他方への不利益になってしまうことです。
例えば、父親が亡くなって、母親(被相続人の配偶者)とその子供が法定相続人となった場合を考えてみましょう。子供が未成年の場合、法律行為ができないので、母親が代理人になるとします。
しかし、母親は相続人という立場でありながら、別の相続人の代理人も行うとなると、自分の利益のみを増やして子供の利益を減らすことも可能になります。そうなれば、遺産分割内容は不公平な結果となってしまいます。
このような利益相反行為は相続では法律的に禁じられているのです。
よって、未成年者が相続人になる時は、多くの場合「特別代理人」の選任を裁判所に請求しなければなりません。特別代理人を選任せずに、親権者が子の代理人として遺産分割協議を成立させても、その遺産分割協議は無効となってしまいます。
【未成年の相続人には特別代理人の選出が必要】
前述したように、未成年者が相続人となる場合、利益相反を避けるために「特別代理人」の選任を裁判所に請求しなければなりません。
特別代理人を選任するには、家庭裁判所での手続きが必要ですので、親権者や他の相続人などの利害関係者が、未成年者の住所地にある家庭裁判所へ申し立てを行います。
請求には、手数料とともに、未成年者の戸籍謄本や代理人になる方の住民票・遺産分割協議案の書類等が必要です。(相続のケースで必要となる書類が違ってくるので、家庭裁判所から提出を求められる書類があれば、都度対応してください。)
特別代理人になれるのは、相続に関係のない方です。もっと言えば、未成年者の事情をよく理解していて、良心的に親権等を代行できる方が理想です。
しかし、適任者を裁判所側で探すことは難しいので、実際には、親権者等が推薦する特別代理人候補をそのまま選任するケースが多いと言えます。
そのため、法定相続人ではない、未成年者の叔父や叔母などがなることもできますし、全くの第三者である専門家が推薦されることもあります。
特別代理人については、遺産分割協議に利害関係のない第三者であれば、基本的には誰でもよいからです。裁判所の審理においては、特別代理人候補者に対し、親権者等との関係性や別途提出された遺産分割協議書案に対する意見等の問い合わせが行われ、最終的に選任の可否が判断されます。
選任されれば、特別代理人は未成年者の代理として、遺産分割協議に参加し、署名押印をすることとなります。
ちなみに、相続人全員の合意を得ているからといって、家庭裁判所の手続きを経ていない代理人は認められません。そのような方が、遺産分割協議に参加しても法的な効力はないのです。
【遺産分割禁止という方法も】
未成年の相続人は遺産分割協議には参加できませんが、成年となれば可能となります。そのため、未成年者が成人になるまで遺産分割協議を行わないという方法もあります。
民法では、5年以下の範囲で遺産分割協議を禁止できることになっています。(5年経った後には再度5年を超えない範囲で期間の更新も可能です。)
遺産分割の禁止が許されているのは、遺族間同士の争いを回避する目的もあるからです。相続では「唐突な隠し子の出現」など想定外の事態も多いもの。通夜や葬儀で忙しい中でそのような事が起これば、相続人同士の関係も荒れて、分割協議はまとまらないでしょう。
遺産分割の禁止は、相続人を冷静にさせ、トラブルを軽減する狙いがあるのです。
ただし、遺産分割禁止にはデメリットもあります。未成年者が成人になるまで遺産分割協議を行わないとなると、相続財産をそのまま置いておくことになるので、「家や土地など不動産の管理費が発生する」「相続税の納付期限が来れば、相続税だけ先に支払わなければならない」という問題が発生します。
特に、相続税の支払いについては、相続資金がない(相続財産を受け取っていない)状態で行います。相続人に資力があれば良いですが、相続税が高額になる場合は、支払いができなくなる可能性もあります。
【遺産分割を禁止するには】
遺産分割を禁止にするには、以下の方法があります。
(1)遺言者が遺言書に記載する
遺言書は財産の分割内容や方法を決めるだけではなく、遺産分割の禁止も指定できます。
禁止できるのは、財産の全部も一部でも構いません。相続税の支払いを考慮して、預貯金を分割可能にして、不動産を分割禁止にすることも可能です。
(2)相続人全員が合意する
相続人同士の合意があれば遺産分割協議を禁止にできます。
分割がストップしている間、相続財産は相続人の共同所有になりますので、相続不動産の固定資産税などは全員で負担します。
(3)家庭裁判所に手続きを行う
家庭裁判所に申立てて分割の禁止を行う場合は特別な事由が必要となります
特別な事由とは以下の通りです。
- ・相続人が未確定
- ・相続財産の全容が明らかでない
- ・遺産の対象となる財産の所有権が係争中
- ・不動産の境界について係争中
【遺言書の作成がお勧め】
前述した通り、未成年者の方が相続人となる場合には、「特別代理人」の選任が必要となる可能性が高いです。
特別代理人の選任に関する手続自体はそれほど難しいものではありませんが、遺族側での手続き負担を軽減するためにも、遺言書で指定しておくのがお勧めです。
また、「本人の判断で遺産分割協議に加わって欲しい」と考える場合は未成年者が成人するまで遺産分割の禁止を指定しておけば良いでしょう。
【未成年者が相続人の場合、未成年者控除が適用可能】
未成年者が相続人の場合は、相続税にも影響がでます。未成年者は「未成年者控除制度」という控除制度が利用できるからです。
本来は、被相続人の財産を相続すると取得財産額に応じて相続税を支払わなければなりません。しかし、未成年の相続人は、定期的な収入がなかったり、学校に通っていて教育費がかかるような場合が多いため、相続税の支払いは多大な負担になってしまいます。高額の相続税支払いによって、生活が困難にならないために、このような相続税を一定額控除する制度が設けられているのです。
控除可能な金額は以下の通りです。
年数については1年未満の期間は切り捨てです。(例えば、14歳3ヶ月の場合は14歳、19歳11ヶ月は19歳として計算します。)
この控除制度の良い点は、控除額が相続税を上回った場合、差し引いた金額を他の相続人の相続税からも減額できることです。減額できるのは、未成年者の扶養義務者(※)のみですが、トータルでの相続税を減らせる部分は大きいと言えます。
※ここでいう扶養義務者とは、自力では生活が成り立たない親族を経済的に援助する義務を持った方で、範囲は配偶者や直系血族、兄弟姉妹等などです。例えば、25歳の兄と未成年の弟の2名が相続人の場合、弟の未成年者控除の一部の金額を兄の相続税額から差し引けることになります。
未成年者控除を適用するには以下の要件を満たします。
- ・対象となる財産は相続で取得したものや遺贈によるものであること
- ・未成年者は法定相続人であること
- ・相続人の年齢は財産の取得時点で満20歳未満であること
- ・相続開始の時点で日本に住所があること(該当しない場合は日本国籍を持っていて、相続人か被相続人が相続前5年以内に日本に住所を有している)
【相続手続きに関するお悩みは八王子相続サポートセンターへ】
未成年者の場合、相続での扱いが通常の相続人とは異なるので十分に注意してください。相続税についても、お得な控除制度が利用できるので覚えておきましょう。
相続についてのお悩み・ご相談がありましたら、八王子・多摩の古川会計事務所・八王子相続サポートセンターへお気軽にお問い合わせください。
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