遺言で「遺産分割禁止」が指定されていた場合の対処方法を解説

相続問題

こんにちは、八王子・多摩で会計事務所をやっている税理士の古川顕史です。

今回の記事では、相続における遺言書で「遺産分割の禁止」が指定されていた場合に相続人側はどのように対処すべきか、またその際の注意点について解説いたします。

遺言書では、遺産分割の協議をさせないことができます。しかし、遺産分割ができないと、相続税の申告や納付手続きがどのように進められるのか、不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。

本記事では、その対応方法について詳しくお話しします。

【遺産分割の禁止とは】

民法908条には、被相続人が遺言で一定期間(最長5年)遺産分割を禁止できる旨が定められています。この制度は、相続発生直後に遺産分割協議を行うことが適切でない場合に備えて設けられています。

例えば、以下のようなケースが挙げられます。

  • ・相続人が未成年者の場合
  • ・予期せぬ相続人が現れる場合
  • ・遺族間の争いを避けるためのクールダウン効果

未成年者が遺産分割協議に参加する際には、親権者や特別代理人を選任しなければなりません。被相続人が「未成年者が成人して自分の意思で分割協議に参加してほしい」と望む場合、遺産分割禁止は有効な手段となります。

また、「隠し子」の存在や予想外の相続人の出現があった際、遺族が冷静に対応できる時間を確保する目的で、遺産分割禁止を指定することがあります。

そして、相続に際して感情的な対立が起こる場合、一定期間遺産分割を禁止することで、冷静に話し合いを進める環境を整えることが期待されます。

【遺産分割を禁止する方法】

遺産分割の禁止を指定する方法は主に以下の3つです。

(1)遺言書で明記する

被相続人が遺言書の中で、相続財産の全部または一部の分割を禁止する旨を記載します。

(2)相続人同士での合意

被相続人の遺言書に遺産分割禁止が明記されていなくても、相続人全員が合意すれば遺産分割を禁止することが可能です。この場合、相続財産は相続人全員の共有状態となります。

(3)家庭裁判所の審判を受ける

特別な事情がある場合、家庭裁判所に申立てを行い、遺産分割禁止の審判を出してもらうことができます。具体的には以下のような場合が該当します。

  • ・相続人や財産の確定ができていない
  • ・遺産対象の不動産が係争中である
  • ・財産の境界が未確定である

【遺産分割禁止と相続税の関係】

遺産分割が禁止されている場合でも、相続税の申告と納付期限は延長されません。相続税の申告期限は、原則として相続発生から10か月以内とされています。

このため、遺産分割が完了していない状態でも申告を行う必要があります。

しかし、遺産分割が禁止の状態で相続税申告をする場合、税額を大きく軽減できる各種特例(配偶者控除・小規模宅地等の特例など)の適用を受けることができなくなります。

この場合、「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税申告時に提出しておけば、その後、遺産分割が完了した際に特例の適用を受けることができます。

なお、3年以内に遺産分割が完了していないのであれば、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に「やむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署に提出することで、特例の適用が認められます。

各種の手続きを忘れてしまうと、相続税負担が増える可能性があるため、注意しましょう。

【遺産分割禁止が指定されている場合の相続人の対応】

遺言書で遺産分割の内容が指定されている場合、相続人全員の合意があれば、その内容に従わずに分割協議を行うことも可能です。ただし、次の条件を満たす必要があります。

  • 遺言執行者の同意が必要…遺言執行者が指定されている場合、執行者の同意がなければ、遺言書の内容に反する遺産分割はできません。
  • 受遺者の同意が必要…遺言書に特定の遺贈が指定されている場合、その受遺者が同意しない限り、遺産分割を行うことはできません。受遺者が遺贈を放棄すれば、同意を得る必要はなくなります。

ここで注意したいのが、遺産分割の禁止が指定されている場合は、相続人全員が納得していても禁止期間中に遺産分割はできないという点です。遺産分割の禁止期間中に遺産分割を行っても、その協議は無効となります。

【遺産分割禁止のデメリットと注意点】

遺産分割を禁止することには、いくつかのデメリットも伴います。

例えば、

  • ・不動産の相続の場合、分割禁止の登記を行わないと第三者に対抗できない
  • ・財産の共有状態が長引くと、管理や維持が煩雑になる
  • ・相続税の納付に際し、手続きが複雑化する

 
遺産分割の禁止が適切かどうかは、これらのデメリットと目的を比較して慎重に検討する必要があります。専門家のアドバイスを受けることで、最適な判断が可能になるため、遺言作成の前に是非相談してください。

【八王子・多摩での相続相談はお任せください】

当事務所では、相続に関する問題に対応しています。遺言書の作成から遺産分割の調整、相続税の申告まで、すべてを一任いただけます。

また、相続トラブルが発生した場合の法的対応も可能です。

相続に関するお悩みは、ぜひ八王子・多摩の古川会計事務所にご相談ください。60年以上の実績を誇る当事務所が、親切・丁寧に対応させていただきます。

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投稿者: 古川顕史(公認会計士・税理士)

八王子相続サポートセンター センター長。 公認会計士・税理士。 早稲田大学商学部卒業 あずさ監査法人退社後、古川会計事務所入所。 八王子相続サポートセンター所長 相続税対策(納税予測、資産組替シミュレーション等)立案多数。