こんにちは、八王子・多摩で会計事務所をやっている税理士の古川顕史です。
保険金とは、被保険者に死亡や入院、通院といった対象事柄が生じた際に、お金が支払われるサービスです。保険金の支払い先は契約者が設定した受取人です。
保険金の中でも、被保険者の死亡によって支払われるものを死亡保険金といいます。
この死亡保険金は、非課税限度額が設定されていることから相続税の対策や、納税資金の準備など、相続において有効となる金融商品です。
今回は、相続における死亡保険金の取り扱いについて解説します。
目次
【法律上の死亡保険金の取り扱い】
被相続人となる方が契約者・被保険者で、受取人が相続人に設定されてある場合、相続開始時に死亡保険金が相続人に支払われますが、このお金は法律上相続財産には該当しません。
通常、相続財産は遺産分割対象となり、遺言書での配分指定か遺産分割協議を経て、取得することになります。
しかし、死亡保険金は受取人固有の財産であり、遺産分割の対象にはなりません。そのため、他の相続人の同意を得ずに、受け取ることが可能なのです。手続きも保険会社に請求を行えば良いので、簡単です。
この仕組みを利用して、死亡保険金を相続税の支払いに充てるといったことも可能です。
【死亡保険金はみなし相続財産】
死亡保険金は法律上相続財産には該当ありませんが、「みなし相続財産」として課税の対象となります。
主に以下のものがあります。
被相続人が保険料の全部または一部を負担していた場合、被相続人の死亡時に受取人に渡る保険金は相続税の課税対象となります。
②死亡退職金
被相続人の勤務先から遺族に支給されるもの。課税対象に死亡退職手当や功労金等がある。
③相続時精算課税適用財産
相続時精算課税制度を適用した財産のこと。同制度利用で合計2,500万円まで贈与税は非課税となるが、相続手続き開始時には贈与した財産に相続税がかかる。
④相続開始前3年以内の贈与財産
相続開始から3年以内の贈与財産は、相続税の課税対象。
これらは厳密には相続財産ではありませんが、「自身の死後に遺族が取得するもの」という部分が通常の相続財産と一致することから、なんら経済効果に変わりはなく、相続税の課税対象となるのです。
ただし、あくまでも税法上で同じというだけで、その他の扱いは通常の相続財産と異なります。
- ・相続財産ではないので遺産分割対象にはならない
- ・通常の相続財産の取得を放棄(相続放棄)しても受け取りが可能
- ・一部のみなし相続財産には非課税枠が設けられている
等々です。
非課税枠は相続税の基礎控除枠とは別のものなので、上手に活用すれば、節税対策となります。
【相続放棄をした場合の生命保険金の扱い】
相続には相続人としての一切の権利を手放す「相続放棄」という選択もあります。
例えば、被相続人に多額の借金があり、それが財産額を大きく上回る場合、そのまま相続を行えば、損害を被ることになります。そのような場合は、相続人が相続発生を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申述をすれば、相続財産を取得しなくてよくなります。
ただし、相続放棄をすると、借金だけでなくすべての財産を取得できません。また、一度手続きを行うと原則的に取り消しもできません。
そのため、相続放棄を選択する際には、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も含めて、すべての資産状況を明らかにした上で判断する必要があります。
さて、そこで気になるのは死亡保険金です。相続放棄を選択した場合、すべての相続財産を放棄することになるため、みなし相続財産である死亡保険金は受け取れるのか気になりますよね。
答えを言うと、相続放棄をしても死亡保険金だけは受け取ることができます。
死亡保険金の契約では、保険会社と契約し保険料を支払う「契約者」、保険の対象となる「被保険者」、保険金を受け取る「受取人」を設定しますが、契約者と被保険者を被相続人、受取人を相続人に指定している場合、支払われるお金は契約に従って被相続人の死亡という事実が発生することで相続人が受け取れるものであり、相続人の固有財産となります。
そのため、現預金や不動産、株式といった相続財産には含まれず、相続放棄をしても受け取りが可能なのです。
【相続税の計算】
死亡保険金は相続財産には含まれませんが、みなし相続財産として相続税が課税されます。
ただし、死亡保険金は、「遺族(受取人)の生活保障」という目的があるため、非課税が設定されています。相続人が保険金を受け取る場合は、「500万円×法定相続人の数」が非課税金額となります。
法定相続人とは遺産を相続する権利のある人をいい、民法で定められた法定相続人の数をいいます。
また、相続税には基礎控除がありますので、保険金を含めた遺産の総額(非課税金額や債務控除額を差し引いた後の金額)が基礎控除の範囲内であれば、相続税はかかりません。
基礎控除とは「どんな人でも、相続財産が一定の金額以下なら相続税が0円となる」ボーダーラインです。相続税はこのボーダーラインを超えなければかかりませんし、申告も不要となります。
基礎控除は「3,000万円+(法定相続人の数×600万円)」の算式で計算します。 法定相続人とは遺産を相続する権利のある人をいい、民法で定められた法定相続人の数をいいます。
相続の放棄があった場合、その放棄がなかったものとした場合における相続人の数とするので、放棄した人も算式の数字にカウントします。(相続の手続き上は、「最初から相続人でなかった」として扱われますが、相続税の計算では「放棄はなかった」として扱われます。)
【受取人の設定によってかかる税金が変わる】
死亡保険金にかかる税金は、以下のように契約者、被保険者、保険金受取人の組み合わせによって種類が異なります。
<契約者=被保険者の場合>
夫が自分の万が一に備えて契約した場合など、「契約者も被保険者も夫、保険金受取人は妻」の契約形態の場合は「相続税」の対象となります。死亡保険金には遺された家族の生活保障という役割があるため、受け取る人が法定相続人の場合は税負担が少なく抑えられるようになっています。
<契約者=保険金受取人の場合>
夫が妻の万が一に備えて契約した場合など、「契約者と保険金受取人が同じで、被保険者が別の人」の契約形態の場合は「所得税」の対象となります。保険料を支払った本人が受け取ったお金については、原則どのような場合でも「所得税」となり、支払った保険料を差し引いて税金を計算することができます。
<契約者≠被保険者≠保険金受取人の場合>
夫が妻の万が一に備えて契約し、保険金を子どもが受け取れるように契約した場合など、「契約者と被保険者と保険金受取人が別々」の契約形態の場合は、「贈与税」の対象となります。保険料を支払った人が死亡したわけでもなく、他人がお金を受け取るため、契約者から保険金受取人に「贈与」が発生したとみなされるわけです。
【遺留分】
死亡保険金は、原則として遺留分の対象にはなりません。
遺留分とは、法律によって決められている相続財産の最低限の取り分のことです。
遺留分の割合は、被相続人の親や祖父母など直系尊属のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、配偶者や子供の場合は2分の1です。(被相続人の兄弟姉妹は遺留分の対象ではありません。)
法律によって遺留分が保障されているので、特定の相続人が財産のほとんどを取得し、他の相続人が遺留分に満たない財産しかもらえない場合、財産を多く取得した方に対して、遺留分に相当する金銭を支払うよう請求ができます。
たとえば、相続人が子供2人だったケースでは、長男に全財産を渡すという遺言があった場合、次男は遺産の4分の1に相当する金銭を支払うよう二男に求めることができます。
法定相続人ではない第三者に全ての財産を遺贈するという遺言があった場合も、法定相続人には遺留分が認められているので、各相続人に設定されている遺留分に相当する金銭を支払うよう受遺者に請求できます。
ただ、死亡保険金は、保険金を受け取る方の固有財産であるため、被保険者である被相続人の相続財産を構成しないもの考えられます。よって、死亡保険金は遺留分の対象には含まれず、保険金として受け取った部分は計算から除外されます。
しかし、全てのケースで死亡保険金が遺留分の対象にならないかというと、そうでもありません。
最高裁判決では、保険金が遺産全体のかなりの割合を占めている場合には、他の相続人との間に著しい不公平が生じるため、遺留分の対象となるとしています。
このように、特定の相続人に多額の保険金が渡ったケースなどでは、相続財産に含まれる可能性があるので、遺産分割に死亡保険を活用する際は、相続人の人数や属性などを考慮したうえで、あまり偏った契約内容にならないよう、注意すべきです。
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