【親の医療費立替】準確定申告の医療費控除と相続税の債務控除の違い

本記事の概要
親の入院費や治療費を子どもが支払った場合、支払ったタイミングや誰のお金かによって「医療費控除」と「債務控除」のどちらが使えるか変わります。税務上の正しい扱いと、二重控除の禁止など実務上の注意点を解説します。
こんにちは、八王子・多摩で会計事務所をやっている税理士の古川顕史です。
ご高齢の親御さんが入院されたり、介護施設に入所されたりした際、子どもが一時的に医療費を立て替えるというケースは珍しくありません。しかし、その後に親御さんが亡くなり相続が発生した場合、立て替えた医療費や、亡くなった後に支払った未払い医療費の精算方法について悩む方は非常に多いです。
結論から申し上げますと、親の医療費は「誰が・いつ支払ったか」によって、準確定申告の「医療費控除」に使えるのか、それとも相続税の「債務控除」として遺産から差し引けるのかが全く異なります。今回は、間違いやすい親の医療費の税務上の扱いについて、八王子・多摩エリアで多くのご相談を受ける税理士の視点で解説します。
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【親の医療費は「誰が・いつ支払ったか」で税務上の扱いが変わる】
親の医療費の税務上の扱いは、支払い元と支払い時期で以下の3つのパターンに分かれます。
親の生前に「親自身の口座」から支払った場合
親の生前に、親自身の預貯金から医療費を支払っていた場合、その医療費は親の「準確定申告」において医療費控除の対象となります。
準確定申告とは、亡くなった方の生前の所得に対して、相続人が代わりに行う確定申告のことです。亡くなった年の1月1日から死亡日までに親自身が支払った医療費は、親の所得から控除できます。この場合、支払いはすでに完了しているため、相続税の計算においてマイナス財産として差し引く「債務控除」の対象にはなりません。
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親の生前に「子どもが立て替えて」支払った場合
親が存命中に、子どもが自分の財布や口座から親の医療費を立て替えて支払った場合はどうなるでしょうか。
この場合、親と生計を一にしている(生活費を共有している)子どもであれば、子どもの確定申告において医療費控除の対象に含めることができます。離れて暮らしていても、定期的に仕送りをしているなどの実態があれば生計を一にしていると認められることがあります。
一方、親の準確定申告の医療費控除には使えません。親が支払うべきものを子どもが代わりに払っただけなので、親から子どもへの借金(未払金)として相続税の債務控除の対象にできる余地はあります。ただし、生計を一にしている場合は税務署の判断が厳しくなるため注意が必要です。
親の死後に「子どもが未払い分を」支払った場合
親が亡くなった後に、病院からの請求書が届き、親の未払い医療費を子どもが支払った場合は、相続税の「債務控除」の対象となります。債務控除とは、亡くなった方が残した借金や未払金を遺産総額から差し引くことができる制度です。親が亡くなった時点で確定している未払い医療費は、確実な債務として扱われます。
なお、この死後に支払った医療費は、親の準確定申告における医療費控除の対象にはできません。なぜなら、医療費控除は「実際に支払った日」を基準とするため、死亡日以降に支払われたものは親の生前の支払いとはみなされないからです。
ただし、ここで知っておきたい重要な選択肢があります。
亡くなった親御さんと「生計を一にしていた子ども」が未払い医療費を支払った場合、親の準確定申告には使えませんが、「支払った子ども自身の確定申告における医療費控除」として申告することが税法上認められています。
つまり、このケースでは以下のどちらか有利な方を1つだけ選択して適用できます(二重適用はできません)。
- 相続税の「債務控除」にする:遺産総額が基礎控除を超え、相続税が発生する場合に向いています。
- 子どもの「医療費控除」にする:遺産が基礎控除以下で相続税がかからない場合や、支払った子どもの所得税率が高い場合に向いています。
どちらを選択すると節税効果が高いかは、遺産総額や子どもの所得によって異なりますので、自己判断せず慎重に比較検討することが大切です。
【準確定申告の「医療費控除」と相続税の「債務控除」の違いとは】
ここでは、2つの制度の違いを整理しておきましょう。
準確定申告における医療費控除の基本
医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額(一般的には10万円)を超えた場合に、所得税の負担を軽減する制度です。
親の準確定申告で医療費控除を受けるには、親の死亡日までに実際に支払いが完了していることが絶対条件となります。未払いのまま亡くなった場合は対象外なので注意しましょう。
■参考:No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)|国税庁
相続税における債務控除の対象
債務控除は、遺産総額からマイナスの財産を引いて、相続税の負担を減らす制度です。死亡時に未払いだった医療費や入院費が対象となります。遺産から差し引くことで相続税を節税できるため、領収書や請求書は漏れなく集計する必要があります。
■関連記事:債務控除の範囲とは【マイナス財産はプラスの財産から差し引ける】
【両方の控除を二重に受けることはできない】
最も注意すべき点は、同じ医療費の支払いを、準確定申告の「医療費控除」と相続税の「債務控除」の両方で二重に差し引くことはできないということです。
生前に払ったものは医療費控除、死後に払った未払い分は債務控除、という明確な線引きがあります。これを混同して申告すると、税務調査で指摘され、修正申告や加算税のペナルティを受ける可能性があります。
【トラブルを防ぐために入院費や治療費の領収書は必ず保管を】
医療費控除を受けるにしても、債務控除として計上するにしても、病院が発行した領収書や請求書が証拠として不可欠です。特に親が亡くなった直後は慌ただしく、書類を紛失してしまうこともあります。実家の片付けをする際など、医療機関の領収書や介護施設の請求明細書を見つけたら、ひとまとめにして大切に保管しておきましょう。
また、八王子・多摩地域の医療機関に入院されていた場合、高額療養費制度の還付通知などが後から届くこともありますので、郵便物のチェックも欠かさずに行ってください。
【相続税の計算や準確定申告の判断に迷ったら八王子相続サポートセンターへ】
親の医療費の扱いは、誰の口座からいつ引き落とされたか、生計を一にしていたかなど、個別の事情によって正解が変わります。ご自身で判断して誤った申告をしてしまうと、本来払わなくていい税金を払って損をしてしまったり、税務署から指摘を受けたりするリスクがあります。判断に迷う場合は、無理にご自身だけで進めようとせず、速やかに相続の専門家に相談することを強くお勧めします。
相続についてのお悩み・ご相談がありましたら、八王子・多摩の古川会計事務所・八王子相続サポートセンターへお気軽にお問い合わせください。70余年の豊富な実績を持つ税理士が親切・丁寧に対応いたします。
【よくある質問(Q&A)】
Q1: 親の介護用おむつ代は医療費控除や債務控除の対象になりますか?
A1: 医師が発行した「おむつ使用証明書」がある場合は、医療費控除の対象となります。死亡時に未払いであった場合は、債務控除の対象に含めることが可能です。
Q2: 個室の差額ベッド代は控除できますか?
A2: 本人や家族の希望で個室に入った場合の差額ベッド代は、原則として医療費控除の対象にはなりません。ただし、死亡時未払いであれば債務控除の対象にはなります。
Q3: 医療費控除を受けるための準確定申告はいつまでにすればいいですか?
A3: 準確定申告は、相続人が「相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内」に、亡くなった方の所轄税務署に対して行う必要があります。通常の確定申告の時期とは異なるため注意しましょう。
Q4: 親の口座が凍結されて医療費を子どもが立て替えた場合、精算はどうすればいいですか?
A4: 子どもが立て替えた医療費は、領収書とともに立替金として記録しておき、遺産分割協議の中で他の相続人と合意の上、親の遺産から精算するのが一般的です。相続税申告では、確実な未払金として債務控除の対象に含めることができます。

八王子相続サポートセンター所長。早稲田大学商学部卒業。あずさ監査法人退社後、古川会計事務所入所。
相続税対策(納税予測、資産組替シミュレーション等)立案多数
「法律顧問」も加えて「相続問題」をワンストップで解消するべく、「八王子相続サポートセンター」を開設いたしました。
八王子・多摩地域における長年の実績をふまえ変化する税制をフォローし、事前・事後の対策如何にかかわらず
「円満な相続」「否認されない相続税申告」を目指し、邁進してまいります。