2023年の相続税改正② 相続時精算課税制度で毎年110万円を控除可能

相続税改正

こんにちは、八王子・多摩で会計事務所をやっている税理士の古川顕史です。

2023年度の相続税の税制改正で大きく変わったポイントとして、前回は「生前贈与加算の延長」について解説しました。

 
税制改正でもう一つの大きなポイントとして、「相続時精算課税制度の変更」があります。今回の記事では、その部分について説明していきます。

【相続時精算課税制度とは】

(1)今までの制度概要

相続時精算課税制度とは、「生前贈与で取得した贈与額合計が2,500万円まで非課税となる」ものです。

通常の生前贈与(=暦年課税方式)であれば、年間110万円が贈与額から控除されますが、相続時精算課税制度では一人の贈与者からの贈与合計で非課税枠が設けられています。

その贈与額の総額が2,500万円以内なら非課税となります。贈与は一括でも、年をまたいでの分割でも大丈夫です。渡す財産の種類(金銭の他、不動産や株式等でもOK)も制限はありません。

限度額に到達するまで何回でも無税で贈与できますが、2,500万円を超えた場合、一律で20%の贈与税が課税されます。

そして、贈与者と受贈者には下記要件があります。

  • ・贈与した年の1月1日時点で贈与者は60歳以上であること
  • ・贈与した年の1月1日時点で受贈者が成年(18歳)以上であること
  • ・贈与者と受贈者は親と子か祖父母と孫の関係であること

同制度は、早期に高額の資産を子供や孫の世代に移転させるための制度です。よって、基本的には相続が起こる関係で利用できます。

暦年課税方式と比べると、一括贈与でも高額の控除が付いてくるので、短年で大型の贈与をしたい方に有効な方法といえます。

(2)贈与分は相続時に課税対象に

2,500万円の非課税枠があると言っても、相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は、相続時に相続財産に加算され、相続税の課税対象となります

相続財産に加算された後の遺産総額が相続税の基礎控除額を超えるのであれば、相続税の申告と納付をしなければなりません。

この仕組みから、相続時精算課税制度とは非課税枠があると言っても、完全な非課税とはならず、税金の支払いを相続時に先送りにしているだけとも言えます。

【相続時精算課税制度におけるその他のデメリット】

(1)暦年贈与に変更できない

贈与時の課税方式として相続時精算課税制度を選択すると、二度と暦年贈与に変更できません。

暦年課税方式であれば、1年ごとに110万円まで無税となります。4年間だと合計で440万円まで贈与税を控除できることとなります。

(2)贈与した年は必ず申告を行う

暦年贈与は年間の贈与額が110万円におさまっていれば、贈与税の申告は必要ありません。

しかしながら、相続時精算課税制度ですと、贈与額に関係なく贈与があった年は申告をします。

(3)小規模宅地等の特例が活用不可

小規模宅地等の特例とは、一定要件を満たすことで、相続した土地の相続税評価額を最大80%まで減額できる制度です。

結論から言えば、相続時精算課税制度で贈与された土地に対して、小規模宅地等の特例を適用することはできません。

小規模宅地等の特例適用には、土地を相続もしくは遺贈によって取得する必要があるからです。贈与によって取得すると、特例の対象外となります。

【改正後の相続時精算課税制度】

改正後は、相続時精算課税制度でも、暦年課税方式と同様に毎年110万円を控除することができます。この控除分である110万円は相続開始時に相続財産に加算されません。

そして、贈与が110万円を超えないのであれば、申告も不要となりました。

今まで相続時精算課税制度は相続時にすべての贈与を相続財産に加算され、かつ少額の贈与であっても毎年申告をする必要がありました。

これらの勝手の悪さが精算課税贈与の利用件数を少なくした要因となっていましたが、この度に解消されて、使いやすくなったと言えます。

なお、これらの適用は2024年1月1日以降の贈与からです。

【相続時精算課税制度は使えるのか】

今回の改正によって、相続時精算課税制度は活用しやすくなったと言えます。

しかしながら、暦年課税制度のような控除枠が設けられることになったとはいえ、「一度相続時精算課税制度を選ぶと、暦年課税制度は二度と使えない」点は変わらないのです

相続時精算課税制度はあくまで、早期に財産移転をしたい方のための制度です。また、贈与と遺産との合算が基礎控除額を下回る(=相続税がかからない)ことが想定されるのであれば、活用しても良いでしょう。相続手続きに比べ、贈与の手続きの方が簡単だからです。

控除額を活用しながら、少しずつ贈与したいのであれば、最初から相続時精算課税制度は選択せずに、通常の生前贈与を続けたほうが良いでしょう。

【相続時精算課税制度についてのお悩み・ご相談について】

相続時精算課税制度についてもっと詳しく知りたい場合や、相続手続きに関するお悩み・ご相談がありましたら、八王子・多摩の古川会計事務所・八王子相続サポートセンターへお気軽にお問い合わせください。

60余年の豊富な実績を持つ税理士が親切・丁寧に対応いたします。

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投稿者: 古川顕史(公認会計士・税理士)

八王子相続サポートセンター センター長。 公認会計士・税理士。 早稲田大学商学部卒業 あずさ監査法人退社後、古川会計事務所入所。 八王子相続サポートセンター所長 相続税対策(納税予測、資産組替シミュレーション等)立案多数。