相続前に預金口座からお金を下ろすことについて【相続トラブル】

相続前に預金口座からお金を下ろすことについて
こんにちは、八王子・多摩で会計事務所をやっている税理士の古川顕史です。
「故人の口座は凍結されるので、生前のうちにお金を下ろしておきたい。」と考える方はたくさんいらっしゃるでしょう。確かに人が亡くなると、葬儀代や諸々の手続き費用、生活費用等でまとまったお金が必要になります。
ただし、相続前にご家族がお金を下ろすことは、大きな問題に発展する可能性があります。
問題の度合いは、財産所有者(被相続人)の意思、引き出したお金の使い道、他の親族の存在などで変わるため、慎重な判断が必要です。
【相続前にお金が下ろされるパターンと予想される問題】
主なパターンと、それぞれで起こりうる事態は以下の通りです。
(1)被相続人の許可があり、被相続人のためにお金を使った場合
例えば被相続人から「入院費用の支払いのために、口座から20万円下ろしてきてほしい」といった指示がある場合、これは本人の意思に基づいた「代理行為」とみなされるので全く問題にはなりません。
ただし、使用された分の相続される財産が減るわけですから、他の相続人に説明できるように領収書やメモを残しておきましょう。(税務署から贈与を疑われないためにも、必要です。)
(2)許可がないまたは曖昧な状況でお金を引き出した場合
本人の許可なく、お金を引き出した場合です。家族という関係上、窃盗罪や横領罪で刑事罰に問われる可能性は極めて低いですが、良いことでもありません。
相続手続きが始まった際には、他の相続人から「あの引き出しは不当だ」と指摘され、「遺産の使い込み」として大きなトラブルに発展する可能性があります。
病気や認知症で許可が得られない場合にどうしてもお金を引き出したい時は、他の家族(相続人)と情報は共有し、理解を得ておくべきでしょう。
(3)許可を得た上で、自分のためにお金を使った場合(生前贈与)
被相続人の許可を得た上で、あなたの為にお金を引き出した場合です。これは金額にもよりますが、「生前贈与」にあたります。
生前贈与では、受贈者一人あたりの贈与額が年間110万円(基礎控除分)を超えていれば、贈与税の申告と納税が必要です。勘違いしやすいですが、カウントは「受贈者ごと」です。
複数人から110万円ずつ贈与された場合などは、受贈者1人あたりの贈与額の合計が年間の基礎控除額を超えるため、超過分に対して贈与税が課されます。
なお、110万円以内であれば贈与税はかかりませんが、被相続人が亡くなる前の一定期間内(現在は3年、法改正により段階的に7年に延長)に行われた生前贈与は、相続財産に持ち戻して相続税を計算する「生前贈与加算」の対象となります。つまり、相続税対策として相続直前にお金を引き出しても、結局は相続財産に戻されるので税金が安くなるわけではありません。
また、この贈与は「特別受益」とみなされ、遺産分割の際に該当者の相続分から差し引かれる可能性が高いです。これは他の相続人との公平性を保つためです。
【相続税対策としてお金を引き出すのは有効か】
「亡くなる前に現金で引き出してしまえば、税務署に分からないだろう」と考えるのは非常に危険です。
税務署は、個人の銀行口座の取引履歴を過去に遡って(通常は10年程度)調査する権限を持っています。亡くなる直前に不自然な額の出金があれば、必ずその使途を税務調査で厳しく追求します。
場合によっては、財産隠しとして追加の税金を課せられる可能性もあります。
相続税対策としてお金を引き出すのは有効な手法ではなく、かなりリスクのある行為です。
【相続での現金を確保する方法】
葬儀等や生活費のために、現金を確保する方法はいくつかあります。
(1)預貯金の仮払い制度を利用する
これは相続開始後(亡くなった後)でも、遺産分割協議が終わる前に、各相続人が単独で一定額の預金を引き出すことができる制度です。
引き出せるのは「被相続人死亡時の預貯金残高×法定相続分×3分の1まで」もしくは「150万円」のうち低い金額に該当するものです。上限額は金融機関単位のため、金融機関を跨って複数の口座があると、出金可能な金額も増えます。
(2)生命保険を活用する
被相続人に生命保険に加入してもらい、相続人を保険金の受取人にしておく方法です。死亡保険金は、受取人固有の財産とみなされるため、遺産分割協議の対象外です。
手続きも複雑でなく、速やかに現金を受け取れるため、現金確保に非常に適しています。
(3)被相続人本人がお金を下ろしておく
被相続人本人が生前のうちに、現金を保管しておく方法です。本人が直接おろすため、相続人同士のトラブルは起こらないでしょう。
遺言書に「現金は葬儀費用と相続人の生活費に充てること」と書いておけば、よりスムーズです。
【相続でのリスクをなくしておく】
「相続後の生活費のため」という考えであっても、相続開始前に相続人側が被相続人の口座からお金を引き出す行為は、税務上も、他の相続人との関係においても、あまり良い行為とは言えません。
相続後の生活が心配な場合は、被相続人本人にお金を下ろしておいてもらう、生命保険を活用するといった方法を考えておきましょう。
緊急で資金が必要な場合は、一定額を先に引き出せる「預貯金の仮払い制度」の利用を検討すると良いでしょう。
相続についてのお悩み・ご相談がありましたら、八王子・多摩の古川会計事務所・八王子相続サポートセンターへお気軽にお問い合わせください。
60余年の豊富な実績を持つ税理士が親切・丁寧に対応いたします。

八王子相続サポートセンター所長。早稲田大学商学部卒業。あずさ監査法人退社後、古川会計事務所入所。
相続税対策(納税予測、資産組替シミュレーション等)立案多数
「法律顧問」も加えて「相続問題」をワンストップで解消するべく、「八王子相続サポートセンター」を開設いたしました。
八王子・多摩地域における長年の実績をふまえ変化する税制をフォローし、事前・事後の対策如何にかかわらず
「円満な相続」「否認されない相続税申告」を目指し、邁進してまいります。